超短編小説ーお菓子ー

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奇稿
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本編

ふたりで開けたお菓子の袋。

真新しいパッケージとフワリと鼻孔をくすぐる甘い香りに、我を忘れて飛びつく。

1つ目をそれぞれ手に取って、顔を見合わせると口の中に放り込んだ。

舌の上で転がる甘味は心地よい感覚とともにじんわりと広がって、身体のどこかに溶けた。

そしてお互いにニッコリと微笑む。

 

それから僕はタガが外れたようにお菓子をがむしゃらに食べた。

口の中に頬張っては咀嚼して、咀嚼が終わる前にまた頬張る。

いつの間にか一口目の幸せは霧散して、

彼女の笑顔が夜に溶け、それでも僕は食べ続けた。

なにかを遮るように。

空っぽにならないように。

けれど彼女は違った。

二口目には笑顔が消え

三口目からペースが遅くなり

四口目には手にとったお菓子を半分だけ噛り

五口目は袋に戻した。

 

僕がひたすら貪る隣で

指にねっとりついた蜜をじっと見て、指をペチャペチャと鳴らす。

彼女の指から伸びるキラキラした糸は

指を動かす度に重力に耐えかねて、何度も何度も切れた。

彼女の仕草から僕の中でなにかが失せて、袋の口をクシャっと握って閉じる。

彼女は指遊びに飽きたのか、立ち上がるとどこかへ消えた。

それからどれくらいの月日が過ぎただろう。

1人で再び開けた袋の中身は、あのときの彼女の指そっくりに全てがペチャペチャだった。

手を入れることすら躊躇うほどに。

僕は乱暴にくずカゴめがけて袋を投げると、彼女と微笑んだ場所を後にした。

あのペチャペチャした音はずっと耳元で鳴り続けている。

 

けれどふたりで食べたお菓子の味は、今ではもう思い出せない。

込めた思い ※ネタバレ

付き合いたてのカップルから別れるまでをササッと描いてみました。

一方的に正しいと信じ、それに没頭して進んでしまう彼と、少しずつすれ違っていく彼女。

最初は彼女の素っ気ない態度にすら気づきませんでした。

2度目は少し気づいたけど、気にしないようにしているようにも見えます。

疑わない、一直線な彼。

最終的には彼女から別れを告げられます。

けれど彼はなにが悪かったのか最後までわからない。

だから没頭した時間に蓋をしました。

 

それから時が経ち、落ち着いたころに開けたお菓子の袋は、当時の彼女の手に付いた糖のように、全てのお菓子が溶けています。

やはり何が悪かったのか、いまだにわからない。

わからないけど、お菓子を見て、彼女が正しかったことだけはわかります。

それがわだかまりとして心の中に残り続ける後悔。

どうすればよかったのか巡る思考。

それでも時が経つにつれて忘れてしまう彼女と過ごした時間。

本当は彼女なんか見ていなかったのかもしれないという自己嫌悪。

まさに思春期だなぁと、書いていて勝手に思いましたとさ。

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